それは、東北と日本中を笑顔でつなぐプロジェクト
取材一覧を見る
名取市が直面している『いま』とは
かつての市街地は荒れ地のままだ

かつての市街地は荒れ地のままだ

仙台市に隣接し、名取川・阿武隈川の両水系に囲まれた肥沃な大地が広がる名取市は、古くから農耕が盛んな地として知られています。東北地方で最大の前方後円墳・雷神山古墳があることから分かるように、古より多くの人々の暮らしが営まれてきた土地柄でした。

農産物や人の交流によって交通の利便性が向上、東海道や奥州街道などの古街道にはじまり、現代では国道4号線バイパスや東北縦貫自動車道、仙台東部道路、そしてJR鉄道路線が整備され、交通の要衝として飛躍的発展を遂げています。さらに、仙台空港も擁することで、国内だけでなく海外からの玄関口としての役割も担っています。

近年は、大規模な宅地開発が進んだことに伴い、大規模商業施設が進出。仙台市中心部に迫る規模で一大商圏を展開してきました。そのため市外からの人の流入も著しく、人口約7万3千人の都市に成長しました。

東日本大震災による名取市の被害で顕著だったのは、やはり沿岸部です。名取川の河口がある閖上地区は、ほとんどの家屋が津波で流出しました。河口の形も大きく変わってしまうほどの水の流れがあり、死者911人、行方不明者41人、半壊以上の建物が5,000棟以上という未曾有の被害を記録。震災当日は、市内の中学校全5校の卒業式当日だったこともあり、子どもたちの犠牲も目立ちます。

現在の名取市は、内陸部から復興が始まり、閖上地区もほぼガレキの撤去が完了しました。閖上漁港内の6.6haの敷地に災害廃棄処理施設を設置し、名取市内で発生した26万tの災害廃棄物と15万tの津波堆積物を受け入れ、建築資材へのリサイクルも行っています。なお、この処理は、2013年9月末で終了する予定です。

現在、沿岸地域の再建を目指していますが、現地住民は「戻りたい」という気持ちと「戻りたくない」という気持ちで揺れています。慣れ親しんだ土地にまた住まいを構えたいけれど、津波への恐怖がぬぐい去れないのがその理由です。現在、仮設住宅は9ヵ所ありますが、今後の身の振り方を決めかねている人も多く、安定した住居の供給が大きな課題となっています。また、名取市だけではありませんが、津波の脅威を目の当たりにした多く人たちがいまだ心に大きな傷を残しており、心のケアも求められています。

'膨大な災害廃棄物を建築資材にリサイクル' 名取処理区 二次仮置場施設
'膨大な災害廃棄物を建築資材にリサイクル' 名取処理区 二次仮置場施設

震災で発生した膨大な量の災害廃棄物を処理するために宮城県沿岸部を4つに分けたブロックの一つで、閖上漁港内の6.6haの敷地に、災害廃棄物の破砕・選別、焼却処理を行う施設を設置。災害廃棄物の種類や作業ごとに7つのエリアに分けて作業を行い、今年9月の完了を目指して稼働中です。細かな選別によって、最終的により多くの災害廃棄物をリサイクルし、安全性を確認した上で、海岸堤防などを作る際の資材として再利用することを目的としています。なお、国及び宮城県では、平成26年3月までにすべての処理を完了させた後、仮焼却炉などの設備を撤去し、更地の状態に戻す、としています。

'被災の中心地から、復興の歩みを始めるために' 閖上の記憶 語り部・案内人 長沼 俊幸さん
'被災の中心地から、復興の歩みを始めるために' 閖上の記憶 語り部・案内人 長沼 俊幸さん

津波によって大きな被害を受けた閖上中学校の北側に、2012年4月22日に建てられたプレハブ造りの「閖上の記憶(メモワ・ド・ユリアゲ)」。地元の特定非営利活動法人「地球のステージ」と京都の公益社団法人「nicco(ニッコー)」(日本国際民間協力会)が共同運営し、津波被害に関するさまざまな資料の展示や閖上中学校遺族会が建立した慰霊碑の管理を行っています。そして、長沼俊之さんをはじめとする地域住民の方々が案内役となり、全国各地から訪れる見学者へ実体験に基づく震災の“語り”を行い、被災地である閖上のことをもっと知りたいという要望に応えています。

'震災のトラウマを表現活動によって治療' NPO法人 地球のステージ 代表 桑山 紀彦さん
'震災のトラウマを表現活動によって治療' NPO法人 地球のステージ 代表 桑山 紀彦さん

東ティモールとパレスチナで医療支援を行い、国内では日本人に国際理解を深めるための教育活動を行っている「地球のステージ」。代表を務めるのは、出身地の名取市でクリニックを運営している精神科医の桑山紀彦さんです。桑山さんは、震災直後から被災者の心のケアを行うため、避難所や仮設住宅集会所の巡回を続けてきました。そこで出会ったのが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ被災児童たち。これまで、音楽や映像によって世界の子どもたちと心のふれあいを交わしてきた実績を元に、ジオラマ作りや映画制作などを通じて被災児童の笑顔を取り戻す活動に情熱を注いでいます。

URL/リンク
http://e-stageone.org/about/npo-e-stageone

'今、取り戻すべきは地域の人々の結びつき' 美田園第一仮設住宅自治会 自治会長 高橋 善夫さん
'今、取り戻すべきは地域の人々の結びつき' 美田園第一仮設住宅自治会 自治会長 高橋 善夫さん

大型ショッピングモールのほど近くにある「美田園第一仮設住宅」。その大半が、名取市閖上5・6丁目でつくる日和山町内会の人々で占められています。閖上で被災し、家族4人を失ったという高橋さんは、この仮設住宅地で自治会長に就任。住環境の改善や、家に引きこもりがちな住人への呼びかけなどを精力的に行っています。この仮設住宅で特筆すべきは、集会所入り口に設置された行事予定表のホワイトボード。あえて回覧板を止めることで、住民が家の外へ出るきっかけづくりを行っています。そして、かつて町内会によって育まれた地域コミュニティの再生のため現在、奮闘中です。

膨大な災害廃棄物が新たな街づくりの資材となる躍動の現場。