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NPO法人 地球のステージ 代表 桑山 紀彦さん 故郷の誇りと人生への明るい展望を、子どもたちの心に。
NPO法人 地球のステージ

津波の傷跡が残る閖上とうって変わって、整然とした美しい街並が広がる美田園地区へ。ここでは、東北国際医療会ゆりあげクリニック内にある「NPO法人 地球のステージ」を訪ねました。一行が案内されたのは、壁にカラフルな手書きのポスターがいくつも貼られ、紙粘土で作った閖上の街のジオラマが取り囲む不思議な一室。

地球のステージの代表を務める精神科医の桑山紀彦さんは、中学生たちの訪問を大いに歓迎してくれました

すでにホールでスタンバイしていた、地球のステージの代表を務める精神科医の桑山紀彦さんは、中学生たちの訪問を大いに歓迎してくれました。桑山さんは、震災を経験した小中学生へ心のケアを行うワークショップ「スカイルーム」を行っています。ジオラマ製作はそのケアの一環。「私たちが行っているケアの基本は“向き合う”こと。津波の恐怖は、放っておけば忘れられるようなものではなく、必ず心の傷の後遺症となります。だから、小学生たちに震災前の閖上の街を思い出してもらって、ジオラマを作ってもらいました」と桑山さん。自分たちが通っていた小学校を中心に、紙粘土の交差点やお店などを置き、臨場感ある街並を作り上げています。

「こんなことをして、辛くならないかと思うでしょ?でも、このジオラマを作ることで、震災の喪失感ばかりで心を満たすのではなく、自分たちの住んでいる街の誇り、自分たちが生きた証を取り戻すことができたんです」とも。ロザン菅さんが「悲しくて、作れなかった子どもはいませんでしたか?」と問うと、「いいえ一人もいませんでした」と自身に満ちあふれた笑顔で、そう答えてくれました。

かつての街が再現されている

かつての街が再現されている

黒い津波が押し寄せる  -中学生記者 倉田くん撮影

黒い津波が押し寄せる -中学生記者 倉田くん撮影

「そして、第二段階として子どもたち各々に作ってもらったのが、震災時のジオラマです。例えば、この子の作品は、建物を押し流す水の色が、青ではなく黒でしょ?自分が経験したことに向き合い、形にすることで他人に表現することができ、自分がどのようにして生き残ったかを自覚することができるんです」と桑山さん。さらに、「津波の恐怖に支配されるということは、人間にとって不自由な状態。震災の話はしたくない、水を見たくない、そう言う人も多いでしょう。そんな不自由は、ただ自分を苦しめるだけ。心の自由を取り戻すためには、震災と“向き合い”、自分が抱えているものを外に吐き出すことが大切なんです」と語ってくれました。

未来の閖上。

ジオラマ製作の他にも、音楽を使った心のケアも実践したそうです。小学生の子どもたちに震災のガレキを集めさせ、宮城県農業高等学校の作業場を借りて楽器を作成。そして、震災から現在にかけて思うことを詞にした曲を作りました。「私たちは、ガレッキって呼んでいるんですよ」と笑いながら、桑山さんは演奏会のVTRを見せてくれました。震災の切実な思いをそのままに歌いながらも、演奏する子どもたちはみな、活き活きとした笑顔。「開き直りともいいますが、大事なのは表現することなんです」と桑山さんは、そう教えてくれました。

また、閖上小学校の生徒4人が主役、共演も地域の方々、ロケ地も地元という映画「ふしぎな石」も自主製作。これは、9月1日に戦災復興記念館で完成披露試写会を行い、高い評価を得ています。取材時には、特別に1シーンを視聴させていただきました。ドキュメンタリーではなく、桑山さんのシナリオによるフィクション。不慣れながら、しっかりと演技をする小学生たちを見て、中学生たちは感心するばかり。「このシーンで登場する子どもを失ったお母さんのセリフは、脚本通りではなくアドリブなんです。自分の悲しい体験や今の心境を素直に話しているんですね。それに、たじろぐことなく子どもたちも劇中で答えています。この映画は、演じる人すべてが、震災に対する思いを吐露することができた作品になりました」と桑山さん。ロザン宇治原さんは、「なんか…とても勉強になります」と、深く何度もうなずいていました。

一連の作品にふれた中学生から「閖上の子どもたちの心のケアを行う活動を通して、桑山さんが感じているものは何ですか」という問いかけが。「私たちが心のケアを行った子どもの数は、たかだか50〜60人。でも、震災で心に傷を負った子どもは何万人もいますよね。その子どもたちが、今、どんな気持ちで過ごしているかが、いつも気がかりに思っています。日本の社会では、辛いことに蓋をしてしまいがちです。震災の体験を作文に書いてみたり、絵で描いてみたり、抱えている思いを外に出すことを大人が促す心のケアが、被災地全域で広がって欲しいと願っています」と、答えてくれました。

未来の街を写真に収めた

未来の街を写真に収めた

地球のステージの活動はこちらをご参照ください→ http://e-stageone.org

この悲劇を繰り返さず、愛すべき閖上の街を後世へ。

人と人との結びつきが、困難を乗り越える強さに。