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美田園第一仮設住宅自治会 自治会長 高橋 善夫さん 人と人との結びつきが、困難を乗り越える強さに。
美田園第一仮設住宅団地

最後に訪れたのは、名取市内に造られた9つの仮設住宅団地のうちの一つ「美田園第一仮設住宅団地」です。駅やショッピングモールにほど近く利便性が高いロケーションにありますが、ここはあくまで簡易的な住まい。住環境として十分とはいえない設備面をはじめ、慣れない土地での不安、いまだ見通しの立たない沿岸部の再建計画、先の見えない将来への焦燥感と、月日を重ねるごとに住民の方々の苛立ちは募る一方です。まさに、被災地のシビアな現実と直面している場所での取材ということで、一行もやや緊張気味でした。

全国からの支援と、まだまだ進まない支援の間で

全国からの支援と、まだまだ進まない支援の間で

団地の中心にある集会場へ向かうと、中から女性たちの朗らかな笑い声が。迎え入れられて足を踏み入れると、お茶を飲みながら談笑している仮設住宅のお母さんたちと、自治会長の高橋善夫さんがテーブルを囲んでいました。壁や天井を見ると、折り紙で作った吊り飾りやパッチワーク、絵手紙やスナップショットなどでいっぱい。子ども用の遊具やリクライニングチェアなんかもあり、明るい雰囲気にほっとした一行でしたが、高橋さんの口から出たのは、「2年5ヵ月たった今でも、閖上地区の街の再建はまったく見通しが立たず、我々が望む街づくりは行われていない状況です」という、厳しい言葉でした。

この仮設住宅団地には、日和山町内会1,800名のうち270名128世帯が住んでいます。通常、仮設住宅への入居は、平等を期すため抽選制。震災の翌日、学校の体育館などへ避難してきた住民から、「ご近所同士がバラバラになるのは嫌だ」と聞いた高橋さんは、行政へ何度も訴えかけました。その成果があって、ここでは、数軒の世帯を一組として互助する “隣組(となりぐみ)”の単位で、入居の割り振りがされています。

震災で家族4人を亡くした高橋さん。奥様は、民生委員として地元に貢献した方でした。自治会長に推挙された際には、地域のために生きた奥様の声を聞いた気がして、大役を引き受けたそうです。そんな奥様の意思を受け継ぎ、この仮設住宅団地でもコミュティを大切にした様々な取り組みを行っています。中学生たちも集会所入り口で発見した行事予定表もその一つ。びっしりと隙間無く書かれたホワイトボードを見たロザン菅さんは、「ずいぶん楽しそうやなぁ!」と驚いていました。また、この集会所には、朝7時から夕方5時30分まで鍵を掛けておらず、出入り自由。「ここにいる人たちはみんな家族」という高橋さんの言葉に、みんな納得の表情でうなずきます。様々なイベントなども行い、維持費に年間約10万円必要だそうですが、住民から会費は徴収していません。メディアなどを通じてこの仮設住宅団地を知った全国の方から、寄付が寄せられているそうです。

中学生から、仮設住宅の暮らしについて聞かれた高橋さんは、「震災前に住んでいた家よりも狭く、風呂の追い炊きができなかったり、冬には床が冷たくなったりと、たくさんの不便があります。すべて体験したことのないことばかりで、戸惑う人も多いようです」と答えます。ロザン宇治原さんが「今も、不便は続いていますか?」と問うと、「以前、ここの駐車場は砂利敷きだったんですが、お年寄りがつまずいて捻挫をしてしまうと市の方に伝えたら、アスファルト舗装をしてくれました。このように改善されていることもありますよ」と教えてくれました。また、高橋さんの勧めで、ロザンのお二人と中学生たちは、高橋さんが実際に住んでする仮設住宅も見学。空間の広さや建材の質、隣との壁の薄さなど、自分たちが暮らしている家との違いを確認することができました。

仮設住宅の暮らし
仮設住宅の暮らし

そして、高橋さんは中学生たちに、「友達をいっぱい作ってください。“遠くの親戚より近くの他人”って言うでしょ?いざという時、助けになるのは身近な人です。普段、地域の交流があれば避難訓練もできますし、辛い思いをしている人に寄り添ってあげることもできます。これから何年かかるか分かりませんが、将来、閖上に戻る時には、この地域の結びつきが強い支えになると信じています」という力強いメッセージを贈りました。

故郷の誇りと人生への明るい展望を、子どもたちの心に。

中学生記者の感想 ロザンの『いっしょに考えよう』コーナー