三陸鉄道が全線運行再開 沿線に「希望の汽笛」戻る
- いわて
- 2020年3月20日
昨年10月の台風19号豪雨で一時、7割の区間が不通となった三陸鉄道(本社宮古市、中村一郎社長)は20日、全線163キロでの運行が再開しました。最後の不通区間となっていた釜石―陸中山田(28・9キロ)が5カ月ぶりに復旧。沿線に「希望の汽笛」が再び戻りました。
強風のため一部で運行見合わせなどがありましたが、沿線住民の皆さんは、待ちに待った「マイレール」の復活に大漁旗を振って喜び合い、東日本大震災に続く災禍にも屈せず、何度でも立ち上がる三鉄とこれからも共に歩み、未来に希望をつなぐ思いを強くしました。
三鉄は昨年3月、JR山田線の一部移管を受け、大船渡・盛-久慈がリアス線(163キロ)として一本に結ばれました。しかし、台風19号豪雨でのり面や路線の崩落など77カ所が被災。順次復旧を進めてきました。
20日午前6時2分発予定だった、釜石駅から北に向かう一番列車には、行く先々のホームで出迎える人に窓から喜びの思いを共有しようと「祝三陸鉄道 再全線開通」などのメッセージを記したボードを用意して乗り込む親子連れの方もいました。復活を祝福する思いを強く感じました。
「よし来た来た」。強風のために遅れて釜石駅を出発した列車が鵜住居駅ホームに近づくと、待ちわびた沿線住民たちの声が一段と弾みます。風にあおられないように、全身に力を込めて大漁旗をはためかせての歓迎。「走れ三鉄 ただひたすら前へ」の言葉が刻まれた旗もあり「三鉄愛」の熱さがひしひしと伝わってきます。
鵜住居駅前にある震災伝承施設いのちをつなぐ未来館に勤務する佐々学さん(40)も大漁旗を掲げました。台風災害前までは三鉄で訪れる来館者も多かったといい待望の復活です。「館内にいても列車が近づいて来る音が聞こえます。列車が走る音が街に戻りうれしいです」と笑顔を見せます。同館では3月31日まで「三陸鉄道復興の軌跡写真展」を開いています。
釜石市の一般社団法人三陸ひとつなぎ自然学校の柏崎未来さん(34)も大漁旗を持つ手に力を込めました。「高校時代は鵜住居駅から列車で当たり前のように通学していました。当たり前であることのありがたさも感じて胸が熱くなりました。これからは三鉄をたくさん使って出掛けます」とマイレール意識が高まったようです。
陸中山田駅で開かれた記念列車出発式では、中村社長が全線運行再開宣言をし「人と人をつなぎ地域と地域をつなぎ、三陸を元気にしていきたい」と誓いました。達増拓也知事をはじめとする来賓も駆けつけ、復活した鉄路を生かした地域活性化の大切さを確認しました。
全線再開を祝したヘッドマークも披露され、列車に取り付けられました。陸中山田駅や折笠駅の最寄りの沿道には大漁旗を掲げた住民が並び、ホームにも手旗を振るたくさんの人が集まり、愛着あるトリコロールカラーの車両を見送りました。
山田町の会社員豊岡傭平さん(33)は長男拓真ちゃん(4)と陸中山田駅で大漁旗を振って記念列車を送り出し、「息子は列車が大好きで、これから開催されるイベント列車が楽しみ」と三鉄での旅に思いをはせていました。
■三陸鉄道スマイル列車に新ヘッドマーク
何度でもともに前へ-。「笑顔と感謝を世界に届ける」をテーマに、釜石東中の生徒たちがデザインしたラッピング車両の三陸鉄道スマイル列車に新しいシンボルがお目見えしました。20日の全線再開を記念し、「何度でも ともに前へ」の文字やヒマワリのイラストをデザインして制作したオリジナルヘッドマークです。
釜石市鈴子町の釜石駅で17日に行った贈呈式で、花王グループカスタマーマーケティング東北支社岩手支店の菅野浩之支店長が三陸鉄道の中村社長に手渡し、さっそく取り付けられました。
菅野支店長は「何度でも立ち上がる三陸鉄道の不屈の精神と、花王グループ社員の心はいつも共にあるという思いを込めました。ワンチームでいつも一緒にいたい。つながっている気持ちが大きいです」と思いを語りました。
中村社長は「支援のおかげで全線再開を迎えます。新たなヘッドマークをしっかり掲げ、精一杯頑張っていきたいです」と決意を新たにしました。
2012年から始まったスマイルとうほくプロジェクトは、震災後に仮設住宅などに暮らしていた皆さんと共に花壇をつくり、夏に大輪を咲かせるヒマワリを植える活動が原点。ヘッドマークのヒマワリはいわば、同プロジェクトのアイデンティティーといえます。
菅野支店長はプロジェクト創生期に泥まみれになりながら花壇づくりに汗を流した経験があり、三陸に寄せる思いの熱さが言葉のはしばしから伝わってきました。
■全線再開を記念し「三鉄スマイル写真館」
新しいオリジナルヘッドマークを付けたスマイル列車の車内では20日、一日限りの「三鉄スマイル写真館」を開催しました。釜石東中の生徒たちの「三陸鉄道を利用する人たちに、復興支援の感謝を伝えたい」との思いを形にしようと2017年11月から約1年3カ月に渡り取り組んだ、スマイルとうほくプロジェクト特別授業の様子を伝える100枚以上の写真やポスターを車内いっぱいに展示し乗客を迎えました。
綾里駅から乗車した綾里小1年の大平航也さん(7)は駅の近くに自宅があり、三陸鉄道が大好きで、三鉄の図鑑などを読み込んでいるそうです。ドアの開閉音だけで車両の違いが分かるというから驚きです。昨年の8月には姉で綾里小2年の明花音さん(9)ら家族と久慈に日帰り旅行にも出掛けたといいます。「駅は島越駅の形が好き」と笑顔で話してくれました。
釜石東中学校の生徒たちは、三陸鉄道との関わりを通して、ふるさとづくりの力になったと言えるのではないでしょうか。試行錯誤しながら鵜住居駅の愛称を考え、ラッピング列車や駅舎の装飾に取り組みました。愛称は多くの公募の中から、同校の生徒が考えた「トライステーション」が選ばれました。
「トライステーション」は、「ラグビーそのものやスタジアムを想起させる、復興のまちづくりにトライしつづけることを伝えられる、鵜住居にもある伝統芸能の虎舞の『トラ』にもつなげやすい」といったことが評価されました。待合室の看板や装飾は、この愛称をもとにして、花や海、虎舞などの釜石らしいモチーフに描かれたカラフルなデザインに仕上がりました。
釜石東中学校を卒業し市内の高校に進学した卒業生たちの多くは、台風19号災害までは、通学の足として使っていたといいます。全線運行再開は高校生にとっても待ちに待っていたことでしょう。列車に乗って元気に通学してほしいです。
春は別れと出会いの季節。高校を卒業すると多くの人たちが古里を離れます。一度離れても、ふとしたきっかけで古里とのつながりを意識するときがくると思います。どんな困難に合っても、生徒の皆さんが関わった三鉄のように不屈の精神で立ち上がり、道を切り開いていけるよう祈っています。(岩手日報社釜石支局 千葉隆治)
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