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会津若松観光物産協会 統括本部長 渋谷 民男さん 会津東山温泉 原瀧・川どこ・今昔亭 総支配人 平賀 茂美さん 人の温もりでもてなす、会津の心意気。

次に訪れたのは、会津若松生涯学習センター、愛称は「會津稽古堂」。公民館と図書館を含む多機能なこの施設でインタビュー取材を行ったのは、会津若松観光物産協会の渋谷さんと東山温泉で温泉旅館の総支配人を務める平賀さんです。原発事故による風評被害は観光事業に未曾有の大打撃を与えましたが、特に、渋谷さんが所属する会津若松観光物産協会が重視しているのが、小中学校の修学旅行に代表される“教育旅行”の減少。

「線量計でこまめに計測して明示しているので、下見にいらっしゃる先生方には一定の信用を得られているはずなのですが、やはり保護者の理解を得るのが難しいようです」と渋谷さん。平成25年4月以降に計測された数値は、0.08〜0.09マイクロシーベルト/時と、ほぼ問題無いレベル。放射性物質に関する正しい知識の流布にも努めていますが、一度染みついた恐怖感を拭い去るにはまだまだ至らないようです。そこで協会職員は、これまで教育旅行で会津若松市を訪れたことのある学校を一校一校訪ね、安全性と会津観光の意義を熱心に説いてまわりました。その成果が実を結び、平成23年度に100校まで落ち込んでいたのが、次年度は210校に回復、今年度は350校を超えると見込んでいます。

「NHKで放映中の大河ドラマ「八重の桜」で、“ならぬことは、ならぬのです”というセリフが有名になりましたが、これは会津藩士の子弟たちの行動規範である『什(じゅう)の掟』の一節です。この厳格で気高い精神は、現代に生きる会津人にも息づいています。会津若松市には歴史的建造物や名産品がたくさんありますが、今まさに見るべきは会津若松市に暮らす人々だと思っています。会津藩の歴史が生んだ倫理観や規範意識を学びながら、観光客のみなさんを温かく出迎える会津人の心根にもぜひ触れて欲しいと願っています」と、渋谷さんは語ってくれました。

『什(じゅう)の掟』を学ぶ
『什(じゅう)の掟』を学ぶ

『什(じゅう)の掟』を学ぶ

原発事故のあった地域から自主的に避難してきた人たちが、数多く流入してきたという東山温泉。公民館や体育館の避難所生活を改善するための二次避難場所にもなり、ピーク時には2,200人以上もの避難者でいっぱいになったことも。この温泉郷を代表する名宿「原瀧」と「今昔亭」も受け入れを行ってきました。第一陣は、平成23年4月3日に避難してきた大熊町の住民。「旅館は短い滞在のお客様をおもてなしするのは得意なんですが、長期間いらっしゃる方のお世話をするのは、実は苦手なんです」と、平賀さんは当時の苦労を語ります。個別に炊事、洗濯するための設備は無く、絶え間なく不便が続く毎日。そこで平賀さんが先導となって、避難者の受け入れ委員会を結成。たくさんの苦情や要望にも応えていきました。その一方、震災直後は、予約客のキャンセルが相次ぎ、旅館経営が危ぶまれましたが、福島県が二次避難の宿泊費を負担することで、何とか回避。避難者が退去した今は、集客を以前と同じ水準に戻すことが命題になっています。そんな東山温泉の今を問うと、「毎年、東山温泉では『東山盆踊り』が開催されているのですが、避難者の方々にも“大熊町の盆踊り”を一緒に踊っていただきました。その名残で、今も2つの盆踊りが東山温泉で踊られているんですよ」と平賀さん。震災を通じて交流した盆踊りの風習。それは、互いに手を取りながら、大きな困難を乗り越えようとする会津の人たちの温かさ、ひたむきな強さを表しています。

郷土の誇りを、また味わってもらいたいから。

風評被害に負けず、堂々たる城郭のように。