それは、東北と日本中を笑顔でつなぐプロジェクト
取材一覧を見る
農業生産法人 株式会社 米夢の郷 取締役総務部長兼工場長 猪俣 道夫さん 郷土の誇りを、また味わってもらいたいから。
取材場所「米夢(まいむ)の郷」

清々しい秋晴れの空に心躍らせながら、ロザンのお二人と安田菜津紀さん、5人の中学生たちを乗せたバスが向かったのは会津美里町。収穫の時期を迎えた美しい田園風景を車窓から眺めているうちに、最初の取材場所「米夢(まいむ)の郷」に到着しました。出迎えてくれたのは、取締役総務部長兼工場長の猪俣さんほか、所員の方々。まずは事務棟の会議室に案内され、震災当時から現在に至るまでのお話をお聞きしました。

施設の入り口に設置された線量計。示されている値は非常に低い数値だが、中学生に緊張が走った。

施設の入り口に設置された線量計。示されている値は非常に低い数値だが、中学生に緊張が走った。

事務所は、大きな揺れによって一部損壊したり、棚から本や書類が崩れ落ちてしまったりはしましたが、それほど大きなダメージは無かったそうです。大きな玄米タンクは修理に手間取ったそうですが、工場の機能が失われることも全くありませんでした。ガソリン不足で輸送の足止めもありましたが、それも数日。見た目には、あまり被害が認められませんでしたが、米夢の郷の所員の方々をはじめ、会津美里町の農家を苦しめたのが東京電力福島第一原発事故を原因とする“風評被害”です。震災直後、主に関西圏の業者が取引を一方的にストップ。公式な安全宣言が出されるまでは、福島県の農畜産物は扱わないと答える業者がほとんどだったそうです。

「“原発事故のあった福島県”と一括りにされている上、消費者への説明が面倒くさいという意識があるみたいなんです」と、猪俣さんは悔しさを滲ませます。それまでは、一般米は新潟県魚沼産に比肩する販売価格を誇っていましたが、その価値は下落。会津米がブレンド用に回されるという、品質に対する正当な評価が得られない状態に陥ってしまいました。

現状を知って欲しい、正しいことを伝えて欲しい。その話には熱がこもる。真剣にメモを取りながら聞く中学生記者たち。

現状を知って欲しい、正しいことを伝えて欲しい。その話には熱がこもる。真剣にメモを取りながら聞く中学生記者たち。

そこで、田植え前の水田と収穫後に放射線検査を実施したり、平成24年に生産したお米から全袋・全量を検査したりと、徹底した調査を実践。さらに、東京や大阪などの都市で開催される販売会、展示会に参加し、実際の数値を示すことで安全性を強くアピールしてきました。こうした対策を講じた後、ネット販売会社を通じてアンケート調査を行ったところ、復興を応援する意味で購入したい人が25%、普通に購入するという人が50%という結果が出ました。「このアンケートに回答してくださった方には、絶対に買わないという人が25%もいるんです」と所長。いわれなき悪評を覆すには、まだまだ道のりは険しいようです。

会津が抱える深刻な問題を目の当たりにして、表情を曇らせる中学生記者たち。猪俣さんは、「田植えのお手伝いをしてくれたり安全性をお客さんに説明したりしてくれている大手スーパーや、会津の農家を“身内”だと思ってくれて積極的に取引きしてくれるレストランもあるんですよ」と教えてくれました。復興支援の意識のみで終わらず、放射線への安全性を正しく認知し、良質な商品として会津米を望む取引先が少しずつ増え始めているそうです。一筋の光明が見える話に安堵する取材者たち。「米夢の郷が設立された目的に、農家の後継者育成がありますが、地域の高齢化などの問題によって離農者が増えてきているのは、震災前も変わりません。さらに風評被害で加速してしまいましたから、農業従事者を確保していくのも今後の課題ですね」とも、猪俣さんは語ってくれました。

会津の農業の現状を学んだ後、ロザンのお二人と中学生たちは、稲刈りにチャレンジ。

うまく収穫できるかな?

うまく収穫できるかな?

菅さんの厳しい指導に思わず突っ込む!?

菅さんの厳しい指導に思わず突っ込む!?

それぞれ手に鎌を携え、頭を垂れた稲穂が待つ水田へ向かいました。農作業にあまりなじみの無い中学生たち。特に沖縄県から来た福里奈々さんにとっては水田が珍しい!と新鮮な体験に。ロザン宇治原さんも、「貴重な体験ができて良かったなぁ!」と喜んでいました。所員の方の指導で、丁寧に一株ずつ刈り取っていく一同。「田んぼ一反刈り取るのに、どんだけ時間かかんねん!」と、思わず遠い目になるロザン菅さん。

「もちろん、普段はコンバインで一気に刈り取っていますよ」という猪俣さんの答えに頷きながら、「君らは、これ全部刈り取るまで、帰らさへんぞ〜!」と中学生を脅かし、笑いを誘っていました。

お米に含まれる放射性物質を調べる検査室と、精米の出荷や加工米の生産を行う工場も見学。検査は平成24年度産のお米から全袋・全量行っていますが、昨年、今年ともに不検出でした。所員の方が手際よく検査機を操作しながら、みんなの前で実演。モニターに表示された数値もやはり微量で、全く問題の無いものでした。

検査と情報発信の、気の遠くなるような積み重ねが必要だ。
検査と情報発信の、気の遠くなるような積み重ねが必要だ。

検査と情報発信の、気の遠くなるような積み重ねが必要だ。

工場では、米袋に貼られたQRコードのシールについての説明を受けました。携帯電話などのカメラ機能などを使って読み取ると、検査結果を知ることができます。「会津米はすべて検査を行っていますから、いわば“日本一安全な米”だと言えるでしょう」と猪俣さん。こういった工夫も、消費者にとって安心感が得られる大切な要素になっています。「このように安全性を証明したり、全国各地でPR活動を行っていたりしていたら、震災前よりコストが跳ね上がりますよね?」と宇治原さん。「確かにそのための費用はかかりますが、国などの補助で補填しています」と答えてくれました。

中学生からも、「米作りをあきらめようと思わなかったのですか?」と問われ、「会津米の取引が断られるようになってから、まるで福島県が高い塀に囲まれているような感覚に陥りました。でも、こんなに美味しいお米を作っているのに、受け入れてもらえないのは悔しいという感情も湧き起こって、そのためには常に安全な米作りを心がけ、それを消費者の方々に訴え続けていかなければいけないと思いました」という固い決意も聞くことができました。

菅風評がなければ、必要のなかった設備投資と人的労力。安全を示す為に、これまでになかった取組が必要となっている。
菅風評がなければ、必要のなかった設備投資と人的労力。安全を示す為に、これまでになかった取組が必要となっている。

風評がなければ、必要のなかった設備投資と人的労力。安全を示す為に、これまでになかった取組が必要となっている。

取材を終えた一行を待っていたのは、新米のおにぎりと煮物、具沢山の豚汁。「白米のおむすびは、シンプルに塩だけで握っています。会津米そのもののおいしさを、ぜひ確かめながら味わってください」と猪俣さん。目の前に現れたごちそうの山に、中学生たちはみんな満面の笑顔。この日、渡部英敏町長もかけつけ、一行を歓迎。郷土の味覚を楽しむランチタイムも一緒に過ごされました。地元の方々の願いは、風評被害の解消。そのために、以前以上に安全と品質にこだわる強い信念にふれることができた取材となりました。

震災直後の混乱の中で人々にぬくもりを届けた自慢のおにぎり。あえて当時と同じ塩むすびに。

震災直後の混乱の中で人々にぬくもりを届けた自慢のおにぎり。あえて当時と同じ塩むすびに。

会津が直面している『いま』とは

人の温もりでもてなす、会津の心意気。