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桜ライン311 代表 岡本 翔馬さん 桜の花がとこしえに伝承していく、震災の記憶と絆。

陸前高田市内の津波到達ライン約170km上へ、10mおきに約1万7000本の桜の植樹を行うユニークな取り組み。ラインに沿って桜並木を作ることによって、津波の恐れがある時にはその並木より上に避難すれば安全であるという指標になり、同時に、震災の記憶を後世に伝承していく役割も果たします。この「桜ライン311」は2011年10月に設立、2012年5月にNPO法人に認定され、市内の20〜40代を中心とした若い世代が運営。2012年1月に1年経過した時点で、約400本の植樹を達成しています。

石碑などのモニュメントではなく、“生き物”である桜を選んだのは、たとえ枯れてしまっても、植え直す時に植樹された意味を思い出してもらうため。この活動に賛同してくれる全国の人たちから苗木や寄付金が寄せられていますが、陸前高田市が復興段階のため、桜を植える土地の確保が難航しているなど、多くの課題もあるようです。

取材地、浄土寺へ

取材地、浄土寺へ

陸前高田市の被災地を巡るガイドツアーを終えて、次の取材地として訪ねたのは「浄土寺」。ここで、ロザンのお二人と合流し、「桜ライン311」の代表・岡本翔馬さんへのインタビュー取材を行いました。伝統の気仙大工によって建てられた本堂や山門などの厳かな建築物にちょっと緊張しながら、境内を散策。その一角に植えられた3本の河津桜が、この取り組みの第一歩となったと、岡本さんは教えてくれました。そして、「この活動で大変なのは、資金調達と植樹する土地の確保です。桜を植樹するのに、スコップなどの道具や資材の費用を含めると苗1本当たり5000円くらいになる計算です。それを1万7000本分用意するための資金をどのようにして確保するかが最初の課題になりました。そして植樹する場所ですが、浄土寺のご住職は僕たちの活動に賛同してくれたので、境内に3本植えることを許可していただきました。

3本の河津桜。 -中学生記者 浦野さん撮影

3本の河津桜。 -中学生記者 浦野さん撮影

津波到達ラインのある土地は、ほとんどが個人所有。土地の地権者は、市の復興計画が実施されると住居を高台に移転する可能性があります。ですから、これから所有地をどのように運用するか、なかなか決められない状況の方が多いんですね。僕たちの活動に共感してくれる方はたくさんいるのですが、現在、復興途上の状況で、植樹の許可を出しにくいという問題があるのが現状です」とも。また、この植樹の活動自体は15年程を見込んでいますが、桜の寿命は約100年。それ以後は、管理・保全の活動を主にしながら、100年後にまた桜を植えてくれる“継ぎ手”へバトンタッチできる体制づくりも考えているそうです。

未来への苗木。 -中学生記者 矢野くん撮影

未来への苗木。 -中学生記者 矢野くん撮影

浄土寺を後にし、今年3月に10本の植樹を行ったばかりの場所へ移動。地権者の許可を得て見学を行いました。山の斜面に植えられた10本の苗木を見て、こんな高い位置まで津波が押し寄せたことに驚きながら、若木が元気に育っていることを確認。「桜は本来、病虫害に弱い植物なんですが、比較的それらに強い山桜系の品種であるオオシマザクラやベニヤマザクラ、ベニシダレザクラなどを選んで植樹をしています」と岡本さん。ロザン宇治原さんが、「津波が流れ込んだ土地に植えても大丈夫なんですか」と心配して聞きましたが、「ガラスの破片や漂流物などは、震災ボランティアの方々のおかげですっかり無くなっています。塩害についても、2年以上経って塩が抜けているので、以前に近い土壌に戻っているんですよ」という答えに安心したようです。

「桜の花の開花を被災地で見た時は、どんな気持ちでしたか」という中学生からの鋭い質問に思わず岡本さんはちょっとドッキリ。「う〜ん…やはり複雑な気持ちはありましたね。たくさんの地元の方が亡くなっていますから。そんな津波の犠牲者を無くしたいという気持ちが、このプロジェクトを始めるきっかけになっています。それに、桜が咲くときれいだし、うれしくなりますよね。この喜びを毎年みんなで分かち合いたいという願いと、亡くなった人たちを追悼したいという思いの両方があって、桜を選びました」と答えてくれました。「このプロジェクトに協力するにはどうしたらいいですか」という問いには、「ホームページなどで植樹関連のボランティア募集などを随時行っています。愛知県の中学校からは、生徒会の活動でシキザクラの苗木を集め、提供していただいたこともあるんですよ」と岡本さん。すかざすロザン菅さんは、「とりあえず君は、学校に帰ったら校庭にどんな桜の木が植えられているか調べて、それを引っこ抜いて送ればいいんじゃない?」ともちかけ、笑いを誘います。最後に安田さんから今後の展望を聞かれ、「植樹に参加してくれた方やこの取り組みに興味を持ってくれた人が、桜ラインの開花を見に来てくれたら、また活気を取り戻すチャンスになるのではと期待しています。そうやって活動の輪も広がっていければいいですね」と、笑顔で答えてくれました。

悲劇を繰り返さないために学び、語り継いでいく使命。

仲間の輪と祭りの復活に情熱をかけた若きリーダーの誇り